インタビュー #4

透明で開かれた区議会から自治と民主主義を立て直す

学び合いとケアの政治への道すじについての前回インタビューに続き、私たちの力で政治を変える方法についてお話ししました。

透明で開かれた区議会へ
――政治はなぜ変わらないか?

――初当選からの4年間を振り返って、いかがでしたか?
ほんとうにいろいろありました。正直、想像していたのと違い過ぎて、驚きの連続でした。

――たとえばどんな風にですか?
初めての本会議で会派を代表して区長に質問したんですが、事前に質問と答弁の原稿を取り交わすんですよ。原稿に書いてないことは一言も聞いちゃいけないなんて、びっくりじゃないですか?

――ネットの録画中継で見ましたよ。あれってやっぱり台本を読み合わせてるだけだったんですね。
台本どおりなのは本会議だけで、委員会は違うんですよ。でも、委員会はネット中継をやってないので、現地に行かないと見られないんです。

――なんで中継しないんですか?
そういう議会内部のルールなんです。多数派が賛成しない限り、ルールも変えられないんですよ。

――区民の要望はないんですか?
もちろんありますよ。一度は議会に請願も出されましたが、結果は反対多数で変わらずじまいでした。
★請願の経緯や審査結果は区議会レポート’22年春号をご覧ください

――請願した区民から、不満の声はなかったんですか?
あったと思いますが、いまの区議会には、請願者が議会で意見を述べる機会すらないんですよ。

――一言も言えないんですか?
発言には委員長の許可が必要なんです。自分で請願の趣旨を説明したいという区民の要望もありましたが、それも認められませんでした。

――ずいぶん閉鎖的ですね。
文京区の憲法とも呼ばれる自治基本条例(※)には、区民の参加を推進し、区民に開かれた区議会を目指しますと書かれているんです。理想と現実のギャップが大きすぎますよね。
※正式名称は「文の京」自治基本条例。文京区の住民自治の原則や基本的な仕組みのほか、区民の権利や区と区議会の責務を明らかにするため、2004 年に制定されました。
★「文の京」自治基本条例の制定経緯や詳細は区の特集サイトをご覧ください

――どうすれば変わりますか?
まず、現実を見に来てほしいんです。何が問題かを知ったうえで、もっと大勢の人が声をあげれば変わります。議員は選挙で選ばれるので、区民の声を無視し続けるわけにはいきませんからね。

――委員会は平日の昼間ですよね。見に行くのには厳しくないですか?
ネット中継さえできれば、いつでもどこでも見られます。見る人や参加する人が増えれば議会の質も向上しますし、議会が変われば区政も変わります。回りくどいようですが、地方自治の仕組みをアップデートするには最善の方法だと思います。
★昨年度の委員会の傍聴者数は計151人/年、全区民の0.07%です(平均すると2.8人/日)。ぜひ区議会の傍聴にお越しください
★議会の開催日時や傍聴、請願等の方法は区議会WEBサイトをご覧ください

――議会が地方自治の要だと?
自分たちにとって大切なことは、自分たち全員で決めるというのが自治の基本ですからね。少数の代表者に任せるのではなく、多くの人が議会に参加することで、意思決定の質も高められるし、政治への信頼や区民の当事者意識も取り戻せます。

――私たちの参加が鍵なんですね。
住んでいる人に「私たちの政治」という感覚があれば、地域にも自治の文化が育ち、共同体への参加意識も高まります。新旧住民の分断や世代間の対立を乗り越えるのにも、住民の政治への参加は不可欠だと思います。

政治への信頼を取り戻す
――地方自治の主役は誰か?

――区内の高校生にインタビューを受けたとか。どんなお話でしたか?
議員が自分たちのほうを見てくれないのはなぜかと。あと、身近に政治の話をできる友だちや大人がいない悩みも聞かせてくれました。

――政治家は票を持っている有権者ばかり見てるんじゃないですか?
でも、ほんとうは未成年も含めた全区民の代表が議員なんですよ。対等な立場で見て、話ができなければ、そもそも代表の役割なんて果たせませんよね。

――選挙権のない未成年の声も議員が代弁すべきと?
そうしないと、子どもや若者の政治への関心も育たないんですよ。一人の人間として大切にされる経験が、政治への信頼に直結してるわけです。身近に話せる人がいなければ議員が話し相手になる。高校で地方自治の授業があれば議員が体験談を伝える。学校や地域の課題を請願にまとめて議会に提案する。そうやって政治を自分ごとに変えていかないと、政治不信を払拭できないと思うんです。

――請願は未成年もできるんですね。
憲法が定める国民の権利ですからね。年齢も国籍も問いません。なのに、ほとんど知られていないんですよ。参政権もそうです。未成年は投票や投票依頼こそできませんが、候補者へのインタビューやアンケート、落選運動などは、誰でも自由にできるんですよ。

――それって本人も知らない場合が多いんじゃないですか?
ほんとうはできるのに、誰も教えてくれないわけです。請願もそうです。せっかくの仕組みが知らされずに、使われないままになっているんです。メディアも教育も、この点ではずいぶん遅れています。

――知らないで無力感を感じているとしたら残念ですね。
議員が教えればいいんですよ。みなさんには力があるんだと。やりたいことがあればいつでも提案できるし、困りごとも解決できるんだと。そうやって人を力づけたり自己効力感を高めたりするのも、議員の大切な仕事だと思います。

――たしか、条例も区民が提案できるんでしたよね?
はい。有権者の50分の一の署名を集めればできます。ほかにも、区長の解職や議会の解散も区民から直接請求できるんですが、文京区では過去に前例がありません。

――いわゆるリコールですね。前例がないのはなぜでしょうか?
リコールは強制力があるぶん、請求のハードルが高いんですよね。逆に、条例提案は強制力がないので、議会が拒否できてしまうという制度上の問題があります。地方自治の主役は住民なのに、住民が望んでも議会が拒めてしまうなんて、矛盾を感じます。
★区民による条例の提案については、前号のレポートをご覧ください

支え合いと学び合いの未来へ
――民主主義を立て直すには?

――どうすればいいでしょうか?
常設の住民投票条例をつくればいいんです。そうすれば、議会が提案を否決したとしても、住民の意思でもう一度、決め直すことができますから。

――なんでも決められるんですか?
はい。法的な拘束力はありませんが、区の運営方針から選挙制度まで、どんなテーマでも住民投票にかけられます。投票のルールも自分たちで決められるので、未成年でも投票や投票依頼ができるのがポイントです。

――住民投票であれば高校生も参加できるというわけですね。
ほかにも、無作為抽出の区民会議や区民による事業提案など、高校生も参加できる仕組みが、実はいろいろあるんですよ。「地方自治は民主主義の学校(※)」という言葉がありますよね。区政や議会の仕組みをうまく使えば、この国の民主主義をここ文京区から立て直すことだって可能です。
※英国の政治学者 ジェームズ・ブライスが著書『近代民主政治』に記した言葉。顔の見える地域社会での自治の営みが民主政治の基盤という意(J.Bryce. 1921. “Modern Democracies”)

――やはり子どもや若者への教育が大切ということですか?
大人もそうじゃないですか。むしろ、ほんとうに必要なのは本来の自分の力を忘れてしまった大人のほうかもしれません。誰だって、ほんとうは自分のことくらい自分で決めたいですよね。誰かに勝手に決められたくはないし、決めさせられたくもない。できれば人のためにもなりたいし、社会だってもっとよくしたいと思っているんじゃないですか。

――それを支えるのが議員の仕事というわけですね。
そうです。誰かに言われるままではなく自分で決めること。無力と思い込んでいた自分の力に気づくこと。他人ごとが自分ごとになり、人任せから自分が行動するようになることで、人と人が支え合い、知恵と力を高め合う、本来の民主主義が育ちます。議員もその実践者のひとりなんですよね。
生活と政治をつなぎ、街場の実践者と議会をつなぐことで、誰もが自分らしく、共に生きる未来をつくる。あなたも一緒にはじめませんか。

▼インタビューの続きはこちらをご覧ください
#5 あなたと議会をつなぐ。生活と政治をつなぐ。
若者の政治参加の方法やそれを支え、励まし、力づける議員の役割など

▼過去のインタビューはこちらをご覧ください
#1 子どもたちが当たり前に政治を志せる社会をつくる
これまでの道のりや政治にかける思い、新しいスタートへの抱負など
#2 未来を生きる子どもたちに選ばれる議員になる
新しいスタートへの抱負や初めての議会活動、開かれた自由な議会への道すじなど
#3 誰もが政治の主役になれる社会をつくる
コロナ危機による変革のチャンスやボトムアップの政治参加の方法など