インタビュー #2

未来を生きる子どもたちに選ばれる議員になる

前回のインタビューでは、初めての立候補を前に、区政への挑戦の経緯や決意についてお話ししました。
今回は、区議会議員になって最初の定例議会までの活動を振り返り、発見や課題、今後の抱負や開かれた自由な議会を実現する方法についてお話しした内容です。ご覧ください(インタビューは2019年8月に行いました)。

生活と政治をつなぐ、住民と議会をつなぐ
――もっと開かれた自由な議論の場に

――当選して3か月が経ちました。これまでを振り返って、いかがですか?
何もかも初めてで、分からないことばかりでした。議会での質問の仕方から職員食堂の使い方まで、先輩議員や職員のみなさんに教えてもらえなかったら、途方に暮れていたと思います。

――職員食堂があるんですね。知りませんでした。
区役所の13階にあるんです。平日のランチタイムは誰でも使えますし、ラッシュアワーを外せば空いているので、子連れやグループでの利用にもおすすめです。

――そのほかには何を教わりましたか?
新人研修では区のすべての事務について、担当の部課長から直接、話を聞きました。外から見ていたときは、公務員というと真面目で堅いイメージでしたが、中に入ってみると一人ひとり個性的で人間味があって、新鮮でした。

――中に入ると違って見えるんですね。先輩議員の印象はいかがでしたか?
ほんとうに十人十色です。議員にも以前は堅いイメージを持っていましたが、みんな気さくでおしゃべり好きなのに、びっくりしました。区役所の22階には議員全員の控室や応接室があって、受付に声をかければ誰でも呼び出してくれます。誰が登庁しているかは出欠板で分かりますので、みなさんも気軽におしゃべりにおいでください。

――私も身近に感じたことがなかったので新鮮です。新人議員はどうですか?
今期は新人が10人いて、お互いに分からないことを聞きあえたので助かりました。新人は慣例が分からない代わりに、フラットな感覚で見聞きできますからね。初心を忘れず、励ましあいながら経験を重ねていきたいと思います。

――新人としての抱負があれば教えてください。
説得力のある質問や提案で区政を動かすには、生活に根ざした地域の課題を深く知る必要があります。どこにでも出かけ、課題を発見し、大勢の人と対話を重ねること。生活と政治を、住民と議会をつなげること。経験と勉強を重ね、議会をもっと開かれた、誰でも参加できる自由な議論の場に変えていきたいと思います。

――開かれた自由な議会、ですか?
そうです。まっとうな政治にはまっとうな議会が必要です。一人ひとりを大切にすること。特に、今の社会環境に適応できない人を守ること。変化の時代には、適応性の強い人たちばかりの均一な集団はハイリスクですから、強弱や利害を越えて多様で個性的なチームをつくり、損得や効率に偏った単一的な価値観を覆したいと思います。挑戦は始まったばかりです。

ともに学び、考え、問い直す
――「知る権利」「参加する権利」を守るために

――はじめての定例議会はいかがでしたか?
これも分からないことばかりでした。過去の議会の資料や議事録を調べたり、先輩議員や担当の部課長に話を聞いたり、毎日が新しい勉強です。知れば知るほど分からないことが増えて、議員の仕事の奥深さを実感しました。

――はじめての本会議で、会派を代表して質問もされたと伺いました。
年4回の定例議会の冒頭で、各会派の代表者が区長と教育長に質問するんです。会派の先輩議員から「初心をしっかりぶつけてきなさい」と背中を押され、持ち時間をぜんぶ使って、思い切って区政への思いを伝えました。このときの映像はインターネットでも配信されていますので、ぜひご覧ください。
★本会議の一般質問の動画はすべて「文京区議会インターネット中継」のwebサイトに掲載されています

――質問はすべてネットで見られるんですか?
いいえ。いまは本会議の一般質問と区長の所信表明だけです。このふたつは台本があるので、質問と答弁を読み合わせている映像しか配信していないわけです。反対に、委員会の自由な議論については映像では見られませんが、会議録はすべて公開されているので、どんな議論がされてきたかは分かります。キーワードや発言者で検索もできるので、気になるテーマや議員の過去の発言も調べられるんです。
★本会議や委員会の会議録は「文京区議会会議録検索システム」のwebサイトから検索できます

――委員会での議論はぜんぶ議事録に載っているんですか?
会議録は逐語ですので、委員会での議員と行政側のやり取りを、そのまま公開しています。議会内のルールがあって、残念ながら議員同士で議論することはできませんが、すべての議案や請願についての賛否やその理由が載っているので、議員一人ひとりのスタンスや考え方を知ることができます。
★議員が提案した条例の審査では、議員同士の議論もあって盛り上がります。検索システムから「議員提出議案」で検索してご覧ください

――知らないことばかりでした。議事録はどのくらい読んだんですか?
これまでの議論の経緯を知っていれば鋭い質問ができますし、ほかの委員会を傍聴するのにも有意義なので、過去5年分は目を通しました。ネットで公開されていない会議録も、議会図書室に開架されているので、気になる議論は遡って調べることができます。

――議会図書室というのがあるんですね。どこにあるんですか?
議員の控室と同じ区役所の22階で、地方自治関連の図書や新聞が揃っています。過去の区の事業評価や、23区の各区議会が実施した比較調査結果など、他では見られない資料もありますよ。行政情報センターと同じで、申請すれば誰でも利用できるので、区役所に来たときはぜひ立ち寄ってください。

――知らないことばかりでした。ところで、行政情報センターというのは?
区役所の2階にあって、区の刊行物や主な資料がすべて揃っているほか、各種の区民相談も受け付けています。あと、区の情報は公開が原則ですから、請求すれば、どんな資料だって取り寄せられます。紙のコピーは一枚10円かかりますが、電子データであればDVD一枚100円で済みます。電子申請もできるので、気になることや知りたいことがあったら、ぜひ活用してください。
★情報公開制度の概要や情報公開請求の方法は文京区のwebサイトに掲載しています

――情報公開もインターネットで申請できるんですか?
私も議員になるまで知りませんでした。実際、区のサービスはたくさんあり過ぎて、多くの人は知らないことばかりだと思います。そもそも、身近な問題でなければ、知る機会もありませんよね。誰もが政治を身近に感じられるようにするには、まず開かれた情報発信が大切だと思います。

――開かれた自由な議会、ですね。
本来、区の情報は区民の情報ですからね。情報の透明性は民主主義の根幹ですし、政治への信頼にも欠かせません。慣例にとらわれず、必要な情報をいつでも誰でも得られる環境をつくるのも、議員の大切な仕事です。

――そのために、憲法にも「知る権利」を謳っているわけですからね。
そうなんです。よりよく生きるには、まず知ることからです。偏った情報ばかり与えられると、考える力をなくしてしまいますから。そうならないように憲法で保障しているのが「知る権利」です。学び、考え、問い直す。一人ひとりが自分で考え、行動する習慣を取り戻すこと。知る権利を守り、開かれた自由な議会を実現することが、まっとうな政治の実現の第一歩だと思います。

一人ひとりが政治の主役になる
――本来の「地方自治」のあり方に立ち戻るには

――区民が議会に参加する方法のひとつに「請願(せいがん)」というのがあると伺いました。詳しく教えてもらえますか?
請願権も、知る権利と同じく、憲法に定められた基本的人権のひとつです。国民が、国や地方自治体に要望や苦情を申し立てる権利を保障するもので、住民の政治参加の方法としても、特に大切のもののひとつです。

――そんな権利があったんですね。手続きはどんな感じですか?
地方自治法の規定で、議会に請願を提出するには必ず、議員の紹介が必要です。請願書に必要事項を記入し、紹介議員に賛同の署名をもらって、年4回開催する定例議会の初日の2日前までに、議会事務局に提出します。
★請願の提出方法や請願書の様式は区議会のwebサイトに掲載しています

――提出したあとはどうなるんですか?
請願書の内容に応じて、関係する委員会に審査が付託されます。委員会では、一つひとつの請願について、願意の妥当性や実現可能性を中心に審査が行われ、採択の可否が判断されます。判断は会派ごとに行うので、それぞれの賛否や、判断理由もそこで分かるんです。

――請願を提出すれば、会派ごとの判断理由も分かるわけですね。
そうです。賛否の態度を表明する前に、必ず会派の代表委員が理由を述べるので、傍聴すれば会派の考え方やスタンスが分かります。あとで会議録でも見られますし、ホームページや行政情報センターで、過去の請願の審査結果も調べられます。採択されるかどうかは、そのときの委員会の構成にもよりますが、不採択でも区民や行政に問題提起できますし、どうして話が進まないのかを知ることもできるんです。
★本会議や委員会の審議は誰でも傍聴できます。傍聴の手続きと区議会の日程は区議会webサイトをご覧ください
★委員会の構成や仕組みも区議会webサイトのこちらのページに掲載しています

――請願は誰でも出せるんですか?
はい。請願は、選挙権のない未成年や国籍のない外国人でも出せます。請願を出すことで本人が不利益を被らないよう、憲法や請願法でも固く守られていますし、請願者本人の氏名や住所も、希望すれば非公開にできます。

――未成年ということは、子どもでも出せるんですか?
そうなんです。参政権と違って、年齢や国籍による制限がないからです。実際に、中学校や高校の授業で議員から請願の仕組みを学んだり、子どもたちが請願を出したりすることで、主権者教育に取り組んでいる自治体もあります。

――ほんものの議会に参加することで、子どもたちの関心も高まりそうですね。
はい。自治体によっては、請願者本人が委員会に参加して、委員に説明することもできるんです。委員から質問もできるので、住民と議員の意見交換のチャンスにもなります。住民の参加で開かれた議会を実現する、新たなチャレンジのひとつだと思います。

――まさに、開かれた議会へのチャレンジですね。
そうです。住民の協力があれば、もっと公正で透明な議会を実現できます。地方自治の理想は住民の自治なわけですから。自分たちの力で自分たちの望む政策や未来を実現する、そんな主権者を勇気づけ、力づけるのも議員の大切な仕事です。国政とちがって地方自治では、議員と首長の両方を、住民が直接選挙できるのもそのためです。

――議員と首長の「二元代表」制と呼ばれるしくみのことですか?
はい。二元代表制というのは、住民に選ばれた議員と首長が、それぞれに対等な立場でチェックし合うことで、はじめてバランスを保つ仕組みなんです。ただし首長が、人数も多く強大な行政組織のトップなのに比べ、議会は少数だし、なかには首長を擁護したり忖度したりする議員もいます。特に、議会の権能を侵されても抵抗しない議員や、首長にすり寄って私益をはかる議員が増えると、本来の仕組みが機能しなくなってしまいます。

――議会の存在意義に関わる問題ですね。どうすればいいのでしょうか?
鍵は住民の力です。住民が議会をチェックし、意見や政策を提案し続けることで、議会と首長の対等な関係が維持できます。主権は政治のあり方を決定する権利であり、政治の主役として意見を言う権利でもあります。本来の主権を取り戻すためにも、住民と議会が知恵と力を合わせる必要があると思います。

新たなリーダーのロールモデルをつくる
――不信と不満の構造を打開するために

――議会の役割について、もっと詳しく教えてもらえませんか?
二元代表のところで説明しましたが、地方自治には議会による監視が欠かせません。首長は強い権限を与えられている分、何でもやっていいわけではありませんので。首長の権力が住民のために使われているかをチェックをするのが、議会の役割です。

――常にチェックし続ける必要があるということですか?
議会のチェックが正しく働いていれば、問題を未然に防ぐ抑止力になりますし、いざ何かが起きたときにも、すぐに軌道修正できます。ここで大切なのは、議会のチェックが正しく機能しているかどうか、住民による監視も必要だということです。

――住民も議会をチェックする必要があると?
議員も首長と同じで、選挙で選ばれたからといって、何でもやっていいわけじゃないですよね。国政でも、政治家の嘘やごまかしがたびたび問題になりますが、権力を手にすると誤解しちゃう人もいるわけです。選んだ結果が正しかったのかどうか、あとのチェックのほうが、ほんとうは大切かもしれません。

――権威主義をチェックするということですね。
権威主義は弱肉強食の論理です。力を持つことを優先すると、弱者への配慮が失われるのと同じで、力を失うのを恐れると、人に弱みも見せられなくなります。自分の弱さや間違いを隠して強者に媚びるか、権威にすり寄るほかなくなってしまうんです。お互いの弱さを認め合えないかぎり、ほんとうのチ―ムは生まれません。

――どうすれば、ほんとうのチームがつくれると?
弱いもの同士、力を持たないもの同士が支え合い、足りない分を補い合うから、チ―ムができるんです。反対に、強い力や権力には依存性があります。短期的に得をすることはあっても、長期的には支配が強まります。依存する側とされる側の非対称な関係が固定化し、メンバーの主体性や自由も失われます。

――いわゆる共依存の関係ですね。
権力に支配されないためには、依存先が複数必要です。単一の強いつながりよりも、多様でゆるやかなつながりです。反対に、権力者はつながりを制限することで相手を支配します。いろんな人が、それぞれにつながり合っているチームの方が、自由に能力を発揮できるからです。

――現在の議会の状況はどうですか?
議会の意思決定も最終的には多数決の場合が多いので、やはり「数は力」という考え方が優勢です。議論に時間をかけるより多数決が合理的と考える人や、「長いものには巻かれろ」で多数派に従うのが得策と考える人が多いからです。実際は、多数決では十分に住民の意思を反映できませんし、多数派に迎合しても議員が得られる利益は短期的です。

――それは問題ですね。政局や議会構成が変われば変わりますか?
表面的には変わりますが、構造的な問題は残ります。そのままでは、たとえ政権が変わっても、新しい多数派が再生産されます。数の論理が優勢な限り、権力になびく人は多数派を求めるからです。政治家が目先の利益を求める考え方や構造を、根本から変える必要があります。

――具体的には?
数の力を行使したり奪い合ったりするのを極力やめて、一人ひとりを尊重する議会をつくることです。そして、区民にもその大切さを訴えることです。選挙では区政の問題が争点になることが大半ですが、議会の課題や改善策も共有すべきです。どうすればこの構造の問題を変えられるのか、共感する区民や議員を増やすことが先決だと思います。

――選挙でも議会の改革を訴えるべきと?
数の論理が優勢な理由の一つは、それが得票につながるからです。徒党を組んで戦う多数派に比べ、少数派は劣勢です。勝ち馬に乗りたい有権者が多数派に投票するだけで、権力に近い立場の人が選ばれて、数の論理を助長してしまいます。

――投票先を選ぶ側の問題もありますね。
政治家の非常識な言動が見過ごされがちなのは、権力を敵に回すと割を食うという打算が働くからです。打算は短期的な利益しか生みません。こんな言動を許していたら未来はどうなってしまうのか。長期的な視点で選ぶ人が増えれば、政治が変わります。

――選び方を変えるということですね。それでは、どんな人が選ばれればいいと思いますか?
権威より個人を大切にする人、弱者の視点と誠実さをあわせ持つ人です。自律的な判断基準を持ち、権威に反対してでも人権を守れる人です。社会や経済が流動化し、利害関係が複雑化するなかで、次世代のリ―ダ―は、自分と意見や立場の違う人の利益も代弁できる人でなくてはなりません。

――自分より弱い人の利益を代弁するということですか?
多数決では少数意見を無視できます。特に、自分は力があって正しいと信じている人は、弱い人や意見の違う人を否定しがちです。意見や立場が違う人と付き合うのは面倒だし、手間もかかりますが、これを受け入れる寛容さがリーダーの資質だと思います。

――政治家の資質でもありますね。何か私たちにできることはありますか?
議員は票をくれる支持者を優先しがちですので、関係が固定化して、全体の利益を損ねていないか、いつもチェックしておいたほうがいいと思います。反対に、議員を票で釣って利益誘導を迫ったり、関係を制限して支配したりしていないかのセルフチェックも必要です。

――お互いにチェックすべきですね。そんな私たちと政治との関係、今後はどうあるべきでしょうか?
社会が流動化した一方、個人のできることは広がりました。集団や権威に従うより、一人ひとりが自分に合った生き方を考える時代です。生活や政治を人に委ねるのではなく、自分で考え、判断し、行動すること。そんな一人ひとりの日々の積み重ねの先に、本来の政治があるのだと思います。

――では、議会はどうなるべきですか?
議会は集団による監視機関であり、意思決定機関です。住民の代表としてチームで首長や行政を監視し、自治体の最終意思を決定します。チームの力を決めるのはメンバーの資質ですから、議員一人ひとりが依存や追認をやめ、住民の立場で主体的に意思決定できるようになれば、議会も本来の力を発揮できます。

――議員の主体性が要ということですか?
議員は、課題もやり甲斐も多い仕事です。国会は人数が多く停滞しがちですが、区議会は一人ひとりの議員の力で変わります。議員が一人変われば、それだけで区政に改革の一石を投じられるんです。誠実で主体的な市民と政治家の対等なパ―トナ―シップが、区政を変える原動力になると思います。

――それこそ、本来のまっとうな政治ですね。
前回のインタビューでも述べましたが、地方自治は民主主義の学校です。区政が変われば他の自治体にも波紋が広がり、地方自治が変われば国政にも変革のチャンスが訪れます。住民に身近な地方議会への関心を高め、開かれた自由な議会を実現することが、本来のまっとうな政治を実現するための最善で最良の選択肢だと思います。

――最後に、読者のみなさんへのメッセージがあれば。
政治への不信や不満のほとんどは構造的な問題です。政治なんて役に立たない、面白くないと思う人は、なんでそう感じるのか、立ち止まって考えてみることが大切です。私たちと政治の関係が元に戻れば、政治家を志す人が増え、社会に秩序と統合を取り戻す原動力になります。未来を生きる子どもたちが当たり前に政治を志ざせる、そんな新しい政治家のロールモデルをつくりたいと思います。

▼インタビューの続きはこちらをご覧ください
#3 誰もが政治の主役になれる社会をつくる
コロナ危機による変革のチャンスやボトムアップの政治参加の方法など
#4 透明で開かれた区議会から自治と民主主義を立て直す
学び合いとケアの政治への道すじや私たちの力で政治を変える方法など
#5 あなたと議会をつなぐ。生活と政治をつなぐ。
若者の政治参加の方法やそれを支え、励まし、力づける議員の役割など

▼過去のインタビューはこちらをご覧ください
#1 子どもたちが当たり前に政治を志せる社会をつくる
これまでの道のりや政治にかける思い、新しいスタートへの抱負など